秘密の地図を描こう
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まさか、ここで戦闘が始まるとは思わなかった。しかも、自分達の行為を邪魔しているのもコーディネイターだ。
「……まだまだ、私は力不足と言うところかな?」
人身を完全に掌握できていない、と言うことは……とギルバートは呟く。
「そうは思わないが……」
こう言ってきたのは意外なことにカガリだ。
「彼らは……自分達の世界しか見ていない。だから、誰でも同じことだろう」
自分では、さらなる混乱を導くだけだ……と彼女はため息をつく。
「私は、ここでもこうしてみているのが精一杯だ」
アスランのように実際に破砕作業を行うことはできない、と言外に告げる。
「己の未熟さを自覚されているだけでも十分ですよ、姫」
こういう向上心を見せてくれる相手は嫌いではないから今のは本心からの言葉だ。
「……だが、それだけでは不十分だ」
今、できなければ意味がない。
カガリは小さな声でそう呟く。
「今、国内を掌握できていないから……キラを連れ戻すことができない」
そばにいてほしいのに、と彼女は小声で口にする。
「姫……それは無理だとご説明したはずですが?」
キラのことは別問題だ、とギルバートはため息をつく。
「……あいつがストレスを感じないようにすればいいんだろう?」
違うのか? と彼女は聞き返してくる。
つまり、彼女にとってキラの体についての認識はその程度だと言うことなのか。それとも、それ以外理解できなかったのだろうか。
「それだけではないのですよ、姫。おそらくですが、彼がけがをしたときに体内に何か細菌が入り込んだのでしょう。その後、それに対する治療もそこそこに戦場に戻ったことで、予想外の反応が起きているものと思われるのですよ」
だから、何かあればすぐに対策をとれるようにしておかなければいけない。
しかし、今のオーブでは不可能だろう。
「技術者だけではなく、コーディネイターを診察できる医師もプラントに移住していますから」
そういえば、彼女はどこか悔しげな表情を作る。
「結局……私はあいつに何もしてやれないんだな」
そして、こう呟いた。
「現状さえ打破できれば、いずれ可能になりますよ」
自分も時間がもう少しとれるようになれば、原因の特定も早まるのだろうが……と彼は口にする。
「今の状況では難しいでしょう」
地球軍が何をするかわからない。キラを守るためにも議長の座を降りるわけにはいかないし……とため息をついてみせる。
「それは……」
彼女が何かを口にしようとした。しかし、だ。
「議長」
それを遮るようにグラディスが声をかけてくる。
「本艦はぎりぎりまで破砕作業を続けます。しかし、その後、地球に降下することになるかと判断します。今のうちに退避してください」
地球上に下りてしまえば、別の意味で弊害が出る……と彼女は続けた。
「ここでしたら、ジュール隊と合流できます」
確かに、それが一番だろう。
「だそうですが……姫はどうされますか?」
彼女も一緒に移動するとなると少し厄介かもしれない。だからといって、彼女を危険にさらすわけにもいかないだろう。そう考えながら問いかける。
「私は、最後まで見届けさせてもらう」
グラディス達の迷惑にならないのであれば、と彼女は視線をギルバートから移動させた。
「艦長?」
どうするかね、とギルバートも問いかける。
「そう言うことでしたら、私が責任を持って代表をオーブへとお届けします」
ですから、と彼女は視線を向けてきた。
「わかった。では、そのようにさせてもらおう」
後はキラのことだな、と心の中で呟く。やはり、眠らせて移動させるべきだろうか。それとも、と考えながら立ち上がる。
「君たちの無事を祈っているよ」
「もちろんです」
そう言って微笑むグラディスにうなずき返すと、そのまま移動を開始した。